真実を知ることを恐怖と感じるか。

否、喜びと感じる。



神様は運命の流れを作る



 暗号が解けた。それをロス少尉から聞いた。
 エドワードからは口止めがされていたようだが、一応ヴィリルも少なからず関係していることだからと報告をしてくれた。これもヴィリルが地位的には彼女達より上だからだろう。
 しかし、内容までは口にはしてくれなかった。
彼女が報告に来たとき、表情が暗かったのは記憶に新しい。やはり、研究書に書いてあることは良い知らせではなかったようだ。収穫の一つにはなったのだろうが。

「俺に、知る権利があるということか」

 なかったら、おそらく、ヴィリルの耳に解読できたという報告はなかったはずで。
 運命とか人生とか、人を縛る言葉は嫌いだったが、たまにはそれに縋ってみるのもよいかと思い、ヴィリルは兄弟の元へと向かった。ただ流れに身を任せて。





「あれ?アームストロング少佐もいる」

「おお、ヴィリル殿」

 部屋に入った瞬間、目にはいったのはアームストロングの大きい身体だった。
 見渡すとロスとブロッシュもいる。人が何人もいるというのに、部屋の空気はとても重く、居心地がとても悪い。この様子だと、どうやらここにいるメンバー全員が同じ情報を共有しているようだ。 部屋の一番奥には拗ねた子供のような顔をしているエドワードの姿もある。

「エドワード・エルリック、何が書いてあった?」

「そのことだが、軍上層部が関わっている恐れがあり、これ以上のことは首を突っ込むなと忠告したところである」

「少佐がそこまで言うってことは、結構上のほうに食い込んでるってことか」

「そういうことですな」

 つまり、アームストロングと同じ地位にあたる自分も関わってはいけないということになる。その一言で、エドワードが拗ねている理由もなんとなくわかった。何かをやる気満々だったのだろう。
 しかし事情が全く掴めていないヴィリルとしては、この状況は気に喰わない。知る権利があると知って流れに身を任せたからには、マルコーの研究書に書いてあった真実を知りたかった。そうでなければ、ただの無駄骨だ。

「で、これからどうすんの?」

 アームストロングがこの場にいる以上、深い話は聞くことが出来ない。

「僕たちは少佐の報告を大人しく待ちます」

 と、アルフォンス。この兄弟が大人しく引き下がるとは思えなかったが、この状況下ではどうにも動けないのだろう。エドワードもその言葉に同意しているようだ。
 ロスとブロッシュも表情は明るくない。護衛の身としては、エルリック兄弟には大人しくしていてもらったほうがよいのが本音だろう。あまり目立った行動を取られ、さらに軍上層部に逆らうことになれば、護衛の二人にも責任問題が問われる。エルリック兄弟のことだから二人を巻き込むようなことはしないとは思うが。


「と言うことなので、俺は帰るよ。とんだ無駄骨だったけど」

「も、申し訳ありません」

「ロス少尉は悪くないよ。知らせてくれなかったら、逆に後味悪いだけだし」

 そう、ロスは全然悪くない。



 だってまだ話はここで終わっていない。

 神様はまだ俺を見捨てていないから。


 物語は今、ここから始まるんだ。