「ありがとな、ウィンリィ」 エドワードはウィンリィのほうを向いて微笑む。 それは嬉しくも苦しくも哀しくも、何もない。 無理して笑っている。 どうしてそうやって笑うの? 笑うのなら、ちゃんと笑って。あなたの笑顔を見せて。 「なんで…なんでお礼なんて言うの…?」 背には焼けた家。 エドワードとアルフォンスの家、だった。 もう炭となった木片しか残っておらず、そこに家があったとは思えないほど無残な風景。 だけど彼は笑う。 感情のこもってない、無表情に近い笑顔。 「ウィンリィがいなかったら俺、ここまでこれなかったと思うからさ」 「なら…本当に感謝してるなら笑って!」 ウィンリィの頬に涙が伝う。 何故だかは分からないけれど。 いや、涙を流すのに理由もない。笑うのにも理由は要らないと思ったから。 それでもただ幼馴染の笑顔を見たかった。 だって国家錬金術師になった時も彼は無表情で無機質な笑顔でしかしなかった。 ウィンリィにとって、それは笑顔でもなんでもなかった。 ―――彼は感情を失った。 彼自身、外見で持っていかれたのは左足。 そしてアルフォンスの魂の練成で持っていかれた右腕。 だけど…内面的な部分をたくさん持っていかれた…気がした。 あの、光のない、焔の灯ってないあの瞳。 彼女は“アレ”を受け入れられなかった。怖かった。 そして自分自身ではどうしようも出来なかった彼に、あの軍の人間はあっさりと焔を点けた。 確かに、父を、母を殺した軍人は嫌いだ。 まだ受け入れられない。 けれど、目の前にいる幼馴染の少年もまた軍人なのだ。 受け入れなければいけない。 そうしなければ全てを受け入れることができなくなる。 幼馴染さえ、受け付けられなくなってしまう。 ―――それはイヤだ。 彼がいなくなったら私はどうすればいいの? 私がいなくなったら彼の機械鎧の整備は誰がすればいい? たったそれだけの存在価値でも、私は彼にとって“要らない物”ではないのなら。 「…リィ…ウィンリィ」 ふと呼ばれる。 「泣くな、ウィンリィ。俺はお前に泣かれたら困る」 それは恥ずかしそうに。 機械鎧ではない左手の人差し指で頬をかきながら、顔を真っ赤にする。 「…泣かないから…笑っ…て?」 そう言って、自分の服で涙を拭う。 頬に少々涙が伝った跡が残り、風が吹くたびに変な感じがしていた。 だけど、それも気にならない。 彼が笑ったからだ。 さっきとは打って変わっての、感情ある笑顔で。 「ありがとう…エド…」 「俺がいなくなるからって哀しむなよ?俺、アルと一緒に頑張るから。 元の身体に戻って、お前に迷惑かけないようにしたいから」 軽く、ウィンリィを抱きしめる。 同じ背丈の少年少女は、その日、別れを告げた。 また帰ってくるその日までの短い時間に…。 The End
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