一目ぼれではなかったけれど。 自分の目が彼を追っていたのは確かだ。 存在意義 自分がまだ軍に入りたてだった頃だ。 女性ということで差別されたくない、そう思っていたこともあった。 だから…だから強くなりたかった。 女性というハンデを背負ってまで軍人になったのだから。 だけど人殺しはあまり好きではなかった。 なら何故軍に?と問うものもいるだろう。だけど私ははっきりと答えられる。 『傍にいたいと思える人がいるから』 はじめてこの東方司令部に訪れたとき、彼はそこにいた。 そのときの彼は今ほどの地位はない。 だけど若さゆえの働きというものなのか、彼の行動はとても意味あるものであり、今の彼を生み出すきっかけになったものがあった。 共に軍に入った同僚にそれが恋≠ニいうものなのだと何度も言われた。 そうなのかもしれない。だけど私はそれがどういうものなのかイマイチ分からなかった。 銃の鍛錬も、した。 人を殺すためのものじゃない。守るためのもの。 貴方を守るためのもの。 まだ遠い存在だから、これを貴方のために使うことはないかもしれない。 それでもよかった。ただの自己満足。 守っていなくても、守っていられるような気分になれるだけで、それだけでよかったの。 そんな毎日を繰り返していた中、彼が中佐になるという話を聞いた。 そういえばちょうど人事異動のときだった。 彼が中佐ともなってしまえば、また自分とは遠い存在となってしまう。 私は地位など気にしていないけれど、彼は違う。 風の噂で聞いた彼の目標。 私はそれを影から支えるだけのような役目でいい。縁の下の力持ちなだけでいい。 「私がマスタング中佐の下で…ですか?」 「君は女性の軍人の中でも特に優秀と聞いてね。それで君には私の下で働いて欲しいんだ」 それが私と彼の初めての会話。 嬉しいとは思った。彼の下で働けるのなら嬉しいはずだ。 だけどそれが本当に自分の望んだことだった? 一生懸命働いて、一生懸命鍛錬して、その結果がこれなのだ。望んだものなのだ。 近づきたかったから頑張ったのではないのか。 傍にいたいと思ったから自分を犠牲にしたのではないのか。 葛藤と不安。 願ったものが傍にあるのに、いざと近くで目にしてみると何もできない。 そんな自分が嫌だった。 「どうしたんだい?ホークアイ少尉。返事は今すぐでなくてもいい。 まあなるべく早いほうがいいかもな。君を欲しがっている奴らはいっぱいいる」 苦笑じみた声で言う。 ああ、私はこの人に必要とされているんだな。数いる軍人の中で私を選んでくれたのだから。 私は幸せなのかもしれない。 「いいえ、その必要はありません」 「?」 「貴方の下で働かせていただきます」 すると彼はにっこり笑って机の上で手を組んでいた手を私の前へと伸ばした。 「私はロイ・マスタング。これからよろしくな」 「リザ・ホークアイです。よろしくお願いします、マスタング中佐」 私は彼の差し伸べた手をゆっくりと握り返した。 暖かいその温もりは、多分、一生忘れられない。 The End
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