自分だけ生き延びて、 人が死んで… 何も出来なくて。 やった結果が 人間の形をしていなかった…。 その日は雨だった。 今の自分の気分。 どうせなら今まで浴びてきた血を全て洗い流してくれればいいのに。 そうすれば少しは楽になるかもしれないのに…。 「もしも“悪魔の所業”というものがあるなら、今回の件はまさにそれですね」 「悪魔か…身もフタもない言い方をするならば、我々国家錬金術師は軍属の人間兵器だ。 一度、事が起これば召集され、命令があれば手を汚す事も辞さず―――」 ロイ・マスタング大佐とホークアイ中尉の声が微かに聞こえた。 「人の命をどうこうするという点では、タッカー氏の行為も我々の立場もたいした差はない、という事だ」 「それは大人の理屈です。大人ぶっていてもあの子はまだ子供ですよ」 「だが彼の選んだ道の先にはおそらく、今日以上の苦難と苦悩が待ち構えているだろう。 むりやり説得してでも進むしかないのさ。 ――――そうだろう、鋼の」 大佐は一歩一歩、階段を降りて俺たちより下に降りる。 俺たちは…落ち込んでいた。 人の命を守れなかったから。 「いつまでそうやってへこんでいる気だね?」 傘も差さず、ただ濡れていた。 過去を流すために。 流れると信じて。 「……うるさいよ」 「軍の狗よ、悪魔よとののしられても、その特権をフルに使って元の身体に戻ると決めたのは君自身だ。 これしきの事で立ち止まってるヒマがあるのだろうか?」 また大佐と中尉は階段を降りる。 「『これしき』……かよ。 ああそうだ。狗だ悪魔だとののしられてもアルと二人、元の身体に戻ってやるさ。 だけどな。俺たちは悪魔でも…ましてや神でもない」 何故? 何故国家錬金術師は悪魔なんだ。 俺たちは… 「人間なんだよ。たった一人の女の子さえ助けてやれない…。 ちっぽけな人間だ………!!」 それが自分の涙なのか、雨なのか分からなかった。 自然の頬に流れる雫が。 それが流したいと思っていた過去なのか。 そんなのはどうでもよかった。 ただ…助けることが出来なかった。 短い間だったけど、一緒にいた女の子を…。 「………カゼをひく。帰って休みなさい」 ………。 カゼなんかひいてもいい。 こんなのニーナとアレキサンダーの痛みに比べたら…。 「兄さん…」 「アルはいいのか?このままで…」 何を言っているんだ、俺は。 アルにこんなこと言ってもしょうがないじゃないか。 「いいわけない…だけど、今の僕たちには何も出来ないよ」 「………戻ろう。今日はいろいろありすぎた」 何も出来ない。 誰も救えない。 ただ必死に生き延びる術を見つけている。 結局は自分のため。 自分とアルのためだけ。 周りを見ていない。 だから人の命も救えない。 なら… 教えてくれよ。 助かる術を。 助ける術を…。 The End
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