当分の目標は生きる≠ノ決定しそうだ。 もう人が目の前で死ぬのは苦痛にしかならないから。 大空へ 真夜中。 宿に泊まっていた少年はベッドに座り、体育座りのように足を抱えて座っていた。 「痛…」 機械鎧の痛みが少年を襲っていた。 金の瞳はその痛みによって硬く閉じられ見えなかった。 瞳と同じ金の髪は肩より少し長めに揃えられており、夜風によってなびく。 あの日から一度も切ってない髪。いつもなら三つ編みで束ねられていたが、寝る前なのでそれはとけ、今は邪魔なだけだった。 痛みはさらに少年を襲っていた。 それはあの手術のときと同じような痛みで。 苦しいときはいつも彼にその痛みを思い出させる。 そしてその痛みを思い出すときは必ず、あの忌々しい出来事さえも思い出してしまうのだ。 ―――俺が必ずもとの身体に戻してやるからな! その約束が、戒めの鎖だった。 自分のせいであんな身体になってしまったアイツを元に戻すことで自分が救われると思っていた。 それが自分を保つ術だと。 その目標がなければ、兄弟という絆がなくなってしまえば、俺は国家錬金術師ではなくなってしまう気がする。 ―――俺を恨んでいるのではないか? 心の底ではそう思っているのではないか。 誰に対しても優しいアイツはそんな素振りなど見せていない。 だけど怖い。 自分がどう思われているかなんてわからないから。 ただ母さんにもう一度会いたかっただけなのに。 その願いが、自分を、弟を傷つけ、そして絆までなくなってしまう。 ―――僕より兄さんの方が先でしょ?機械鎧は色々と大変なんだから。 その言葉は偽り?それとも真実? 「アル…俺はどうすれば…」 一人じゃ何も出来ないことを知った。 情けない。 いくら天才と言われても、最年少国家錬金術師だと言われても。 誰も自分を助けてはくれない。むしろ助けを求められる側で。 偉くなんかない。 何も出来ない。それが真実。 たった一人の女の子さえ助けられない自分がいて。 惨めだ。 ただこうやって影では落ち込んで、自分で自分を慰めている。 「…飛びたいな。鳥のように自由に」 ふと足から手を離し、ベッドに寝転がる。 天井はさほど高くない。だけど手を伸ばしても届かない。 足の痛みは先ほどよりはひいている。痛くないといえば嘘になるが。 機械鎧の右手を天上に掲げ、それをじっと見つめる。 「機械鎧でも、俺たちは人間だ。たとえ人間という形をしていなくても。 俺が人間ならアルも人間だ。…俺たちは兄弟なんだから」 ぎゅっと手を握り締める。 感触はない。だけどそこに存在するというのは手に取るように感じられる。 落ち込んでいる自分をなくそうと思った。 前へ進もうと思った。 彼女の分も生きようと誓った。 たとえ自分は神に嫌われていようとも、彼女の代わりになんかなれないと分かっていながらも。 自分はここに生きている。生きてやらなければいけないことがある。 後ろを向いていては前には進めない。 この手を、この足を、…弟を、失ったものを元に戻すことはできない。 「飛んでやる…いつか大空に…」 気付いたときには、足の痛みは消えていた。 The End
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