守れればそれでいいと思った。 望むものは一つだけ 「大佐、今日中にこれを仕上げてください」 いつものように、リザ・ホークアイ中尉は上官の世話で忙しかった。 目を離せばすぐサボるし、街へ出かけていったと思えば女性に笑顔を向けるだけ。 彼の常識は軍中心のようで女性中心とも思えるような――部下にこのような優秀な人がいなければ、今の彼はなかったであろう。 「――ホークアイ中尉…今日私はデートがあると言わなかったか? この書類の山を今日の七時までに終わ…」 「人間その気になればなんだって出来ます」 と、ロイの言葉を一瞬にして遮ってしまった。 もう言い訳も何も出来なくなったロイは仕方なく書類に手を出し始める。 それはもう猛スピードで。 彼が本当に力を発揮すればこのデスクワークだって容易いものであろう。 ―――力を発揮すれば、だが。 そんな上官を横目にホークアイも部屋の中央にあいてある椅子に座り、自分の仕事を始める。 退屈だ。 事務も立派な軍の仕事とは言えど、何か物足らない。 こんなときには気分転換に射撃でも、と思うのだが、ここでロイから目を離すとすぐサボると思うとここから離れるわけにも行かなかった。 「はぁ…」 とため息を吐く。 「どうしたんだ?」 「いえ、何でもありません」 ロイのほうへと顔を向けると、そこにはじっとホークアイを見つめる彼がいた。 それは心配そうに。 滅多に仕事をサボることのない彼女がよほど心配だったのだろう。 「…サボる気はないから、中尉は今日はもう帰りなさい。疲れが溜まっているように見える」 「…そんなことはありません」 図星だったのかもしれない。 確かに最近ほとんど寝ていない。 あの…スカーの一件が合ってから、事件という事件が絶えない。 さらに大佐がよくサボる、ということもあり、彼女の疲労はピークに達しかけていた。 だけど眠い、ということもほとんどない。 むしろ寝付けなくなっている。…布団に入って、目を瞑ってもすぐに目を覚ましてしまうのだ。 「最近寝ていないのだろう?これでも付き合いは長いほうだからな、すぐ分かる。 本当にサボる気はないよ。君に今以上に負担をかける気はないから」 「…分かりました」 率直に。 …嬉しかった。 ちゃんと見ていてくれたことが。 これが私が彼に惹かれた理由の一つ。 「ありがとうございます、大佐」 望みは一つだけ。 彼を守ること。 好かれようとは思わない。愛してほしいとも思わない。 ただ傍にいるだけで十分だから。 彼が生きているだけで私は幸せだから。 彼を守るためだったら人だって殺せる。 The end
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