「中尉、バレンタインのお返しです」 「ホークアイ中尉ー。これ、この前のお返しッス」 「ホワイトデーなんで、俺からも」 「【ホワイトデー】バレンタインデーにチョコを貰った男子が…以下略」 「あら、ありがとう」 ホークアイは、いつもの笑顔でそれらを受け取る。少し意外そうな顔を、一瞬見せたが。 例え義理チョコをあげたといえど、まさかお返しがあるとは思ってもみなかった。今まで…東部にいた頃は一度も返ってきた例がない。 「僕からはブラックハヤテ号のためのドックフードです。本当は中尉のためになにか用意したかったんですが思いつかなくて」 フュリーの袋は確かにペット屋の袋。茶色の質素な紙袋の中心に、犬の絵が描かれている。中を開けると、確かにドックフードが一箱は入っていた。 いつもホークアイが買っている、ブラックハヤテ号が大好きなもの。流石元飼い主。拾ってきただけに、ブラハのことが良く分かっている。 「ありがとう、フュリー曹長。ハヤテ号も喜ぶと思うわ」 そして次に、ブレダ少尉から袋を開ける。 「俺も何あげたらいいかわかんなかったんで、定番みたいなもんですけどね」 ちょっと照れくさそうに。そしておそらく本人も買うのが少し恥ずかしかったであろう。きっと店員さんに「彼女さんにですか?」とも聞かれてしまいそうである。なんとなく想像してみたら、顔を真っ赤にして袋を受け取るブレダの姿がすんなりと思い浮かんだ。 クッキーである。 プレーンのものと、ココアのものと、バランスよく入っている。ピンクのリボンで結ばれているところも、可愛らしい。 「ブレダ少尉が買ったんスか? これ」 ハボックが信じられなそうに指をさしながら言う。 「滅茶苦茶恥ずかしかったけどな。彼女にとか言われちまったし」 やはり。流石上司。分かっている。 「うふふ。ありがとう。これはファルマン准尉?」 「そうであります!」 それは、この中では一番小さく、白と赤の紙でラッピングされている。 彼女の性格柄、テープを綺麗にはがし、紙もなるべくクシャクシャにならないように広げていく。 そして、中には小さな白い箱。重さもそこまで重くない。むしろ軽いほうだ。 「これは…ヘアピン?」 銀のヘアピンだった。ピンの先に赤い小さな宝石が埋め込まれている。光の具合によってそれは、とても輝いて見える。 「准尉、それ高いんじゃないですか…?」 フュリーがそう言うと、ファルマンはきっぱりと否定した。 「いやそんなことは。たまたま通りを歩いていたときに露天で見つけたものです」 「綺麗ね…。今度、付けてみるわ」 そして最後に。 「あっ!それ俺のッスよー」 じゃああまり期待できないわね。 …なんて口が裂けてもいえないけど。 ハボックがくれたものは、フュリーと同じように茶色い質素な紙袋。違うところといえば、絵なんて全くなく、けっこう重たいところであろうか。 ジャラジャラと音もする。これでお金とかは入っていたら嬉しいのだけれど。 「…弾丸?」 出てきたのは、大量の弾丸。種類は何種類かあるようだ。 「そうッスよ?中尉だったら喜ぶかなーとか思って」 ハボックらしいといえば、ハボックらしい。 でもなんか違う。ホワイトデーってもっとこう、夢のあるものじゃないのか。 しかしそれを言ったら、フュリーのドックフードもホワイトデーのお返しとはいえないものなのだが。 「………ありがとう」 「今なんかすっごい間があったんスけど」 「気のせいじゃないかしら」 少し毒のある笑顔が痛い。 中尉の言うとおり、気のせいだと思っておこう。むしろ気のせいだと思っていなければ、自分の身が危ない。 「でも四人とも、本当にありがとう。まさかもらえるとは思ってなかったから」 最後の言葉に、悪意があるのかないのかはわからない。 「そういえば中尉は大佐からは貰え…」 「バカッ!ブレダ少尉!!」 一瞬だが、ホークアイの顔が曇った感じがした。しかしすぐにいつものキリッとした顔に戻る。 「さあ仕事をやりましょう」 そして。 「いやあ諸君、元気かなー?」 タイミングの悪さは世界一である。 「ん?どうしたんだい?」 「さあ仕事仕事」 「俺は今日も現場だ」 「曹長、我々はこれでしたな」 「そうでしたね」 ドアの前に立ちすくむ男、二十九歳。 雨の日は無能といえども、大佐の地位まで上り詰めた男。 しかし。 報われない男でもある。 終われ。
|