「また、会えるから」

それを聞いたのは何年も前のことだったけど、今も鮮明に覚えている。




約束




姿なんて覚えていないけど、その言葉と歌だけが強烈に記憶の中に残っている。
初めて一人と云うものを知ったとき。
あなたの歌が、あなたの言葉が、俺を動かす。
百年以上も前の話だけど、俺の旅立ちが始まったあの日の出来事は、きっと忘れられない。

「やっぱりここにいたね」

「…」

「あっ、今日は言わないんだね?」

不敵な笑みを浮かべて。
嫌いではないけれど、好きなタイプでもなかった。
毎日のように俺を探しては、こうやって俺の元へとやってくる。所謂、ありがた迷惑と言うものだ。別に俺にとってはありがたくもなんでもないけど。
同じタイプで、アルドのやつも苦手だった。俺の部屋の前をうろついたり、同じ弓矢の使い手として特訓を手伝ってくれとか。そういう今日も、あいつから逃げてきてこの甲板にいる。
そうしたらこの様だ。例のごとくセイにつかまり、こうやって今こいつは隣に当然のごとく居座る。

「…なんで俺に関わるんだよ。この船にはもっと人がいるだろ?」

「君はほっとけないんだよ。一人にしちゃうと、どこか遠くに行っちゃいそう」

確かにそうかもしれないけど。この船に乗った限りはこの戦が終わるまで乗っていようとは思っている。だけどそれも気まぐれ。目の前でたくさんの人が死んでいくのには耐えられない。…まるで俺が、コイツ≠ェ殺しているように感じるから。

「なんでテッドは一人で旅をしているのさ?」

青い瞳が、自分を見ている。海の青さをそのまま引き継いだような、深い深い青の瞳が。
その瞳はどこかで見覚えがあるような気がした。ずいぶんと昔に。

「あ…」

「ん?」

それは、あなたの瞳によく似ていた。記憶にはないけれど、感覚で。

「…約束をさ、したんだ。また会おうって」

口が勝手に動いた。
セイには聞いて欲しかった。あの人に似た瞳を持つセイには。
ただの気休めかもしれないけど。似たような紋章を持つこいつには聞いて欲しかったのかもしれない。

「ずっと前だし、もうその人は死んでいるかもしれない。だけどもう一度その人に会いたい。会ってお礼を言いたいんだ」

それが本来の旅の目的とも言いがたかったけど。

「会えると良いね」

セイはニコッと笑う。
それを見て、俺は苦笑した。何故か、こいつに言われると本当に会えるような気がした。本当に、ただの気休めだけど。
やっぱり似ている気がした。その瞳は、俺を惹きつける。だから俺は無意識にこいつに惹かれたのかもしれない。同じような紋章を持っているのも、偶然ではないのかもしれない。

「話してくれてありがとう。まさか話してくれるとも思わなかったけどね」

先ほどとは違って、いたずらに笑う。だけどそれでもよかった。俺は誰かに聞いて欲しかっただけなのだ。
セイはそれで満足だったのか、じゃあねと言って俺に背を向けて去っていった。
俺はその背中を見送り、口を開いた。
記憶の片隅に残る、あの人に習った歌を歌うために。

(セイ、お前に似ているのなら、きっとあの人もお前のような人なんだろうな)

太陽のような、そんな人。





The End