幼い頃は、ただ純粋に遊ぶことだけを考えていた。
ずっと、ずーっと仲良く暮らすことできればいいと思っていた。




その遠き日に





義祖父であるゲンカクからは多くのことを学んだ。
家が道場であったため、武道に関することはもちろんであったが、その他にも勉強であったり遊びであったり、どれも決して無駄ではないことばかりであった。
その中の一つが、パチンコであった。
城の外をたまたま散歩していた時に拾ったY字型の枝を見て、ふと思い出す。ゲンカクに教わり、三人でよく作った。作り方も、遊び方も、今でもしっかりと記憶している。その時に作ったパチンコは、きっと家にあるだろう。
幼い頃の小さい手で作った、木のおもちゃ。仲良く、三人で遊んだ思い出が目に浮かんできた。




「僕の勝ちだねっ!」

雲一つない青い空の下。ルイは、ジョウイに自分の作ったパチンコを見せ付け、ケラケラと笑っていた。

「――別に勝負をしていた訳じゃないじゃないか」

それに対してジョウイは、冷めた様子でため息を一つ吐いた。
確かにジョウイの言う通り、二人はパチンコで石の飛ばし合いはしていたが、勝負として勝ち負けを付けようとしている訳ではなかった。

「そんなコト言ったって、ジョウイだって途中からムキになってたじゃん!」

最初は石の飛ばしだった。しかしいつしか、どちらの方が石を遠くに飛ばせるか、という目的の遊びに変わり、勝ち負けを付ける戦いとなっていた。お互い負けず嫌いな性格のせいか、相手が自分より遠くに飛ばすのが気に食わなかったのだろう。パチンコ用に集めた小石がなくなるまで、二人は石を飛ばし合っていた。

「もう!喧嘩しないの!」

言い合いをしている二人を見て、飛ばし合いを後ろで座ってみていたナナミが仲介に入る。

「どうせジョウイは、ナナミに良いとこ見せたかったんでしょ?」

ルイがそう言うと、図星だったのだろうか、ジョウイの顔が真っ赤になった。ナナミは不思議そうにジョウイの顔を覗く。

「ち、違うよ!そう言うルイだってそうじゃないの!?」

言い返されたルイは平然としながら、ナナミは姉第だからね、と言う。ナナミもナナミで、うんうんと頷いているし、ジョウイは仲間はずれにされた気分であった。
そんな三人の様子を見ていたゲンカクが、遠くの方で微笑んでいる。

「じいちゃんまで笑ってる!」

「ふははは!三人とも仲が良いな!」

よっこらしょ、と声に出して腰を上げ、三人の方へと歩み寄る。三人は三人でゲンカクの方へ駆け寄っていった。ゲンカクの笑顔を見たら、今まで喧嘩していたのが馬鹿らしくなったのだ。

「いつまでもこうやって暮らしていたいな」

ナナミが笑顔で言う。

「もちろんだよ!ね、ジョウイ!じいちゃん!」




「…イ?…ルイ!」

「あ、れ?ナナミ?」

目を開けると、茶色い瞳が目に入る。
ナナミである。

「どうしたの?ボーっとしちゃって!」

「…ん。なんでもないよ」

昔を思い出してた、なんて言ったらナナミは悲しむかもしれない。今も昔のように三人で暮らしたいと思っているナナミにとって、昔の思い出は重荷でしかない。
ルイの中でも、その気持ちがないわけではないが、今はそんな悠長なことは言ってはいられない状況だった。戦況は、未だ同盟軍側が劣勢であるのだから。

「シュウさんが探してたよ?」

「ああ、今から行くよ」

拾ったY字型の枝をポケットに仕舞う。会議が終わったら、紐を貰って、パチンコを作ってみよう。


石の飛ばし合いで勝敗が付けば、人が死ななくて済むのにな。


空を見上げたら、あの時のような青い色が、空に広がっていた。





The End