沢山の色が存在する中で、何色にも染まらない色なんてあるのかな。




Who is Pink




「ルイ!」

扉が開かれる音と同時に、名前を呼ばれる。見知った茶色の頭がひょっこりと扉の向こうから顔を出した。

「あ…仕事中だった?」

机に向かうルイの横には、書類の山があった。書類に目を通し、サインをしているのだろうか。ルイは一瞬ナナミの方へと顔を向けたが、また書類と格闘をし始める。戦いを率いるだけが軍主としての仕事ではなかった。戦いがない時でも、大量の事務仕事が、彼を襲う。シュウ曰く、「リーダーたる者、文武両道でなければなりません」とのことだ。

「…ん、大丈夫。何か用だった?」

手に持つ書類にサインをし、手を上げて伸びをする。そして所在無く立っていたナナミに歩み寄る。一人で寝るには大きいベッドにナナミを座らせ、その横に自分も座った。

「えっとね、こんなの見つけたんだ!」

と、取り出したのは黄色い箱だった。蓋を開けると、短いものから長いものまである十二色のクレヨン。

「クレヨンだよね。どうしたの、コレ」

「取りに行きたいものがあって、ビッキーちゃんにキャロまで送ってもらったんだ。
それで、部屋の整理をしてたら出てきたの」

ナナミの服をよく見ると、所々に埃がついていた。クレヨンを見つけた嬉しさの余り、急いで城に戻ってきたのだろう。埃付いてるよ、と言うと、ほんとだ、とえへへと舌を出しながら笑う。
ルイは服に付く埃を取っているナナミからクレヨンを受け取り、青いクレヨンを取り出した。

「青と言えば、フリックかなやっぱり。いつもレキさんに『青いの』って言われてるし」

「赤はカミューさんとか!レキさんも赤って感じだね!」

「緑はルック、かな。白はー…シロ?」

二人は一本一本取り出し、軍の人物をイメージしては当てはめる。
それは、イメージというよりは、服の色であったりするのだが。

「ピンクって誰かなあ?」

ピンクだけ、一際目立って短かった。本来なら紙に包まれているクレヨンも、ピンクだけは短すぎたのか、クレヨンを包んでいた紙はすでになくなっていた。

「――僕は、ナナミだと思うよ」

「どうして?」

自分と言う印象がなかったのか、頭の上にクエスチョンマークをナナミは浮かべていた。

「服の色、かな」

嘘ではないが、それが本当の理由ではなかったのかもしれない。ルイの顔はわずかに熱を持っていた。赤くなっていないかと心配になる。

「そっか!そしたら私がピンクだね!」

何も無かったように笑うナナミを見てルイはほっとする。気付かれてない、良かったと。今まで挙げていた人物も、服の色から連想される人ばかりだったのが幸いだったのかもしれない。

「ごめんね、ルイ。お仕事の邪魔しちゃって」

うん、私邪魔だ。そう言って、ナナミは部屋から出て行った。クレヨンはルイの膝の上に置かれたままだ。
ルイは改めてそのクレヨンを眺める。普通の人が見たら、ピンクだけ極端に減っているのに違和感を覚えるだろう。しかしルイにとっては、それがごく当たり前であると思った。

「昔、ジョウイとナナミの絵をいっぱい描いたっけ」

それも、ナナミが居ない時にこっそりと。
ナナミがそれを聞いたら喜ぶのかな。恥ずかしがるのかな。想像すると自然と笑みがこぼれた。

「さあて、仕事仕事」

クレヨンを箱に戻し、机の引き出しの中へとしまった。

(辛くなったらこのクレヨンを見て元気だそう)

ナナミに感謝しなくちゃいけないな、と心の中で思う。

(あ、もしかしてそれが目的だったのかな…)

ここ数日は戦いも続き、休んでいる暇がなかった。ナナミももちろんそれを理解しているはずだ。彼女がキャロに行った理由は、ルイを元気付けるためだったのかもしれない。

「今度、ハイ・ヨーさんに甘いものを作ってもらおう」

そのためには目の前にある書類の山を片付けなきゃいけない。もう一度伸びをし、再び書類の山と格闘し始めるのだった。







The End