僕の友人は、泣き顔を決して見せなかった。 涙を流す君がいた
それは、僕らが父さんたちに内緒で飼っていた猫が死んだときだった。 僕はその猫がどんどん冷たくなっていくのに耐え切れなくて。猫をその場に置いて逃げてしまった。 死んだ≠ニいうことを理解したくなかったからだ。 だけどテッドは僕を追いかけてこない。 涙は目に溢れ、地面へと落ちる。視界は、自然とぼやける。自分の泣き声だけが、辺りを響かせる。すると急に寂しさが込み上げてきた。 「…ぅぁ…」 孤独感が、僕を襲った。 猫が死んだ寂しさと、周りに誰もいない寂しさと。 一人でも何も出来なかった。いつも誰かに守られてばかりだった。父さんや、グレミオや、テッドに。 「うぁぁぁああぁぁん」 泣くことしか出来ずに、その場にうずくまる。自分の膝を抱え込むことで、自分がここに存在していると、実感できる気がしたからだ。だけどそれも気休めで。孤独感は消えることがなかった。 「…父さん…グレミオ…」 助けを求めても、彼の人物は来ないと知っていても。 「…テッド…」 「呼んだか?」 声が上から降ってきて。 顔を上げると、そこにはいつものように笑っている君がいた。 僕へと手を伸ばし、笑いかけている君が。 「ほら、ちゃんとあいつを埋葬してあげよう。な?」 僕は涙を拭い、その手を握った。そこにはちゃんと君と僕とのつながりがあって。 冷たくなっていた僕の手は、君の優しさで温かくなった。自然と、孤独感が消えていた。 僕は弱い人間だ。 人の死にも絶えられない。猫の…生き物の死にも耐えられない。一人で生きていくことが出来ない。 いくら本を読んで勉強したって。修行をして強くなったって。 きっと僕は人も、猫も殺せない人間だと思っていた。誰かが死んだら、わんわんと泣き叫ぶ人間だと思っていた。 「テッドは強いんだね」 ふと、思い出したように呟くと、テッドは不思議そうな顔をした。 「猫の死だって恐れてない」 その顔を見て、理由を問われているような気がして答える。それを言うとテッドは、手をグーにして口に置き、ククッと笑う。 「お前みたいに泣くのが普通さ。俺はもう手遅れ…なのかな」 その言葉の意味をこの時はまだ理解が出来なかった。それを理解できるようになるのはまだ先の出来事で。 「お前はお前のままでいいんだよ」 「じゃあテッドはテッドのままでいてよね!」 ◇
小さな墓を立てた。 この土の下に、俺たちが育てた猫が眠っている。俺はそこで手を合わせているレキの背中を見ていた。 もし俺が死んだら、誰かが哀しんでくれるのだろうか? 今、レキがやっているように誰かが俺のために墓を作ってくれるのだろうか? そう思うと、俺は苦しかった。 俺が死ぬとき、お前は生きているか?俺が死ぬとき、俺を知る人物は生きているか? きっと。 誰も俺を知らず、俺も誰も知らず、人知れずに死ぬのだろう。 だからそれまではこうしてお前と笑っていたい。お前は俺よりも強い人間だから。 きっとお前となら生きていける。 そう信じて。 The End |