俺の中には、別の人格が住んでいる。 あいつは俺の苦しむ姿を見て喜んでいる気がした。 だから俺はどんなに苦しいときでも、それを見せないようにした。 Dependence
「―――テッド?」 顔を上げると、そこには親友の姿。その姿を見て、俺は安堵した。 目をつぶると闇の世界が広がる。 飲み込まれてしまいそうなぐらい暗い暗い海の底。 俺はそこに独りぼっち。 「どうしたんだ?」 「いや、それはこっちのセリフだよ。ぼーっとしちゃって…」 「スマンスマン。少し考え事をしてただけだ」 目を開けると、そこは光の世界。 太陽が世界を照らす。花も木も動物も人も―――たくさんの生き物が居る。 大切な親友が居る。 しかしその世界に俺は居ない。 親友は先生との訓練を終えたばかりらしく、首にタオルをかけ、右手には棍を持っている。 「今日はどうだったんだ?」 「まだまだだよ」 苦笑いをして、親友は横に座った。 言葉ではそう言っているが、実際の棍の腕前は段々と上がってきている。先日久々に様子を見に行ったが、少しではあるが親友のほうが先生を押している気がした。棍は専門外なので、素人の自分では判断しがたいものがあるが。 さらに親友の顔つきは日に日に大人びてきている。成長しない自分と違って。 年齢的には自分のほうがずっとずっと上なのに。 悔しい思いと、この居心地の良い場所に長く居すぎたと言う後悔が入り混じる。 「テッドの方は?」 「……ハハ」 「そんな日もあるよ」 乾いた笑いで察してくれたようで。 いつもなら狩りに失敗したぐらいじゃ、こんな気分にはならないのに。 今日は調子が悪かった―――一言で言えば。 妙に右手が疼く。魂を欲しているのか。 「―――――れる?」 「…ん?何か言ったか?」 「やっぱり今日のテッドおかしいよ」 「――そうか?いつもどーりだと思うけど」 あくまで冷静を装って。 「…まあいいけどさ。今日はうちに来られる?」 親友はいつも、それ以上は聞かない。 本当は知りたいのかもしれない。 本当は教えたいのかもしれない。 けれど、それは同時に、居場所を失うことになる。 親友を失うことになる。 それをお互いわかっているのか、親友と俺は一定の距離を保っている。 はたしてそんな関係の俺らを「親友」と呼ぶことは正しいのだろうか。 「そうだな…。今日はサッパリだったし、久々にグレミオさんの料理も食べたいし…」 「じゃあ決まりだね!」 一気に顔が明るくなる。心からの笑顔。 太陽のような笑顔。 「おー嬉しそうだな」 「今日は父さんも帰ってくるからさ。テッドも来れば、久々に家族揃っての食事だし!」 家族。 その言葉が妙に心に響いて。 親友の家には、親友と血がつながっているといえる者は父親だけであった。他に住んでいる者は、彼と血のつながりはない。けれど、誰が見ても家族のようなそんな存在の者たちが居る。 それに自分も含まれていいのだろうか。 「それじゃあ、今日全然駄目だったのは、グレミオさんの呪いだな」 「アハハッ。そうかもね」 出来ることなら、この太陽のような親友の笑顔を奪うようなことはしたくなかった。 その前に、そうなる前に、彼の前から姿を消すつもりだったんだ。 でも居心地がよくて。 ―――俺がその居心地を壊してしまうとは考えたくなかった。 このときに感じた右手の違和感を素直に受け入れられれば良かったんだ。 しかし、全ては、彼らが出会ったことからはじまっている。 The End |