愛されるものと愛されないもの。
その違いっていったい何?
姿? 性格? センス? 強さ? 身分?
何を持っていれば僕は愛されることが出来るの?愛することが出来るの?

「君は笑うことが出来ないから」

僕はもう誰にも愛されず、誰も愛することが出来ない。


Love You Love Me


別に愛されたいというわけでもない。ただ愛すということがどういうことなのか知りたいだけだった。
果たして僕は愛されていたのだろうか。
ただリーダーだから敬っていたのではないか。慕っていたのではないか。従っていたのではないか。影でこそこそ何かを言われていたのではないか。
勝つことが当たり前になってきた時、積もるものは不安感だけだった。


『本当にこれでいいの?』


『これが正しい道だったの?』


『もっと最善な方法があるんじゃないの?』


行き交う言葉。僕はどれも聞き流す。


『帝国軍の将軍の息子なんでしょ?本当はスパイだったりして』


『オデッサ様を殺したのも彼なのかもしれない』


そうやって。
何もかもを誰かのせいにして、人間は生きていくんだ。
人が人を理解することなんて出来ないこと。僕だって本当に理解した人間を持っていない。逆に僕を本当に理解した人間なんていないだろう。グレミオだって、テッドだって、父さんだって、マッシュだって。

だって僕を本当に理解しているのなら、僕を本当に愛しているのなら、僕を救ってくれるはず。この苦しみの淵から僕を救い出してくれるだろう。
けれどみんないなくなって。
僕を理解してくれたかもしれない、僕を愛してくれたかもしれない人はもういない。


『あんたは今にも壊れそうだ』


うん、君の言うとおりだよ。だけどそれは君も同じ。
君も誰にも愛されていない。愛されようとしていない。愛そうなんて思っていない。
僕も君も似たもの同士。こんなことを言ったら君は怒るだろうけど。だけどこれが真の紋章持ちの宿命だったのなら仕方のない。

愛することを望むなら。
愛されることを望むなら。
相手と同じ環境にならなければ。相手と同じ、対等な関係にならなければ。
果たして僕はなれる?そのような人間になれる?
きっとなれない。たとえ僕が真の紋章を手放したとしても。
世界中の人間たちは。そして目の前にいる貴方も。
きっと僕をレキ・マクドール≠ニいう一人の人間としては見てくれないだろう。解放軍を率いた英雄≠ニしてしか僕を見てくれないだろう。
だから僕もそう見よう。世界中の人間はただの人間。僕より弱い人間だと思い込もうではないか。
そうすることでしか、僕の存在理由はないのだから。


『あなたは一人ではないのだから』


『ずっとあなたの傍にいます。だって坊ちゃんは私の誇りですから』


その言葉は嘘偽りではなかった。自分でもわかっている。
だって本当に嬉しかったのだから。
小さい頃から一緒だった。二人とも母親…父親みたいだった。家族だった。
大きな手で僕を撫で、優しい瞳で僕を見つめ、悪のない力で共に戦った。

だけどそれも過去。多分この先、そんな思いはしない。過去は過去。決して帰っては来ない出来事。
僕はもう出来ないことが、沢山あることを知った。
戦いから逃れることはできず、幸せになることもできず、誰かとともに暮らすこともできない。

そして笑うこと。
いつからだっただろうか、僕が感情というピースをなくしたのは。
リーダーになった時から?
…違う。笑ってリーダーを引き受けるなんてことはしなかった。確かに笑っていた。笑ってはいたんだ。

『僕でいいのならば。オデッサさんの意志を継げるものが僕しかいないのならば』


それは責任だった。自分のせいで一人の女性を死なせてしまったという。
きっとその時に、感情というものをなくしたんだ。
涙を流すことも忘れ、オデッサさんを殺したヤツに対して怒ることもできずに。ただ僕は呆然としていた。僕の手も服も真っ赤に染まり…。


『レキ・マクドール殿…私は貴方に従います。何があってもこの軍の…貴方のためにこの力を使いましょう』


もう人が死ぬのが嫌だった。怖かった。
だから偽りの感情を作ったのだろう。自分が笑うことでみんなが笑顔になれるのならば。感情の表すことはそう難しくはなかった。慣れてしまえば簡単なことだった。

マッシュ。
多分お前は最初から気付いていたはず。僕らがお前の元へ行ったときにはもう、僕は義務的に、リーダーとして笑うことしか出来なかったのだから。
それでもお前は付いてきてくれた。
感謝している。グレミオやクレオだって、それは同じ。もしかしたらビクトールも気付いていたかもしれない。


『もう無理して笑うことはないんですよ?』


戦いが終わった日。クレオ、貴方はそう言った。
例えリーダーとしての義務は終わっても、このあとついてくる重い重い、国を率いらなければいけないというプレッシャーがある。もちろん戦いが終わったら、旅に出ることは前々から決めていたことだけど。

もうこの仮面をはずすことはないだろう。
だけど僕には言葉がある。たとえ、義務的にしか笑うことが出来なかったとしても、言葉で感謝を表す事だって、悲しみを表す事だって、難しいことだけど出来る。今までだってそうやって来たんだから。

だから僕は歌を歌う。誰かのために歌を歌う。
僕を恨む人だっていると思うけど、僕を受け入れられない人だっていると思うけど。
僕だって人を受け入れることは出来ないから。愛することが出来ないから。
だけど僕は歌を歌う。
世界で独りになっても歌を歌い続ける。



The End




+アトガキ+
決して感情が無くなったわけではない。感情の表現の仕方を忘れてしまっただけ。
友人を失い、自分を助けてくれた人まで死んでしまい、責任を感じた。
だから自分も愛すことと愛されることを望んでいない。自分を犠牲に。
決して人間が嫌いなわけじゃないんです。むしろ守りたいんです。
でもそれを表現できないから苦しんでる。それがうちのレキ・マクドールです。