きっともう自分は役に立てないと思った。 ただ不安感を与えるだけ。邪魔なだけなんだと。 別離 小さい頃からずっと傍にいて、ずっと見守ってきた弟。 いつのまにか大きくなって、逆に見守られてきた。弟の背中はとても大きくて、偉大だった。かっこいいと思えた。 どうしてだろうか。いつからこんな風に思えてきたのだろうか。 ルイがリーダーになると言ったとき、もう自分からルイは離れていた。だけど傍にいたかった。ルイは弟なのだから。例え血が繋がっていなくても、私たちは姉弟なのだと信じていたから。 幼い頃に繋がれた手。どちらかの手が冷たければ、もう片方が温めようと努力する。どちらも冷たければ、ギュッと握って温めようとした。小さな傷一つない、肉刺一つなかったその手には、いつしか沢山の切り傷ができ、戦った勲章ともいえる肉刺が沢山できていた。もう握ることはできなくなっていた。 弟はだんだんと遠い存在になっていった。もう弟とは呼べないと思ったぐらいに。 ティントで私は「逃げよう」と言った。 これ以上苦しむ弟を見たくなかったからだ。人が死んで苦しみ、ジョウイのことで苦しむ。これ以上にない苦痛を、この戦争は与えていると思った。自分にとっても辛かった。 だけどルイはそれを受け入れなかった。 たとえ自分が苦しくても、信じてくれる人がいるからと笑った。優しい笑顔だった。幼い頃から変わらないものだった。 私はもう、彼にしてあげられることはなかった。 苦しみから解放する術を知らなかった。知ることを許されなかったのかもしれない。 『傍にいてくれるだけでいいから』 傍にいられるだけじゃ嫌だ。何もできないのは嫌だ。 『辛かったらさ、いつでも頼っていいよ?』 それは私のセリフだよ。辛いのはルイでしょ? だから無理やりついていった。少しでも役に立ちたかった。傍にいたかったから。 ◇
少年は泣いていた。 姉を失った悲しみは、誰にも分からない。ただ泣いていた。 『私、キャロに帰ります』 『…どうして』 『一緒にいてもルイにとって、私は弱みだから…。だから私、キャロで待っていたいんです。あの子におかえり≠ニ言ってあげたいんです』 少女の決意は固かった。 少年に嘘をつくのは容易いことだ。だけど心の傷を増やすことを考えると、どうも難しい。 言葉は単純だ。 たった一言で人をどうにでもできてしまうから。 『シュウさん…ごめんなさい。辛い役を押し付けてしまって…』 『…いや、軍師は嫌われ者でも構わないものだ』 そう、軍師たるものは嫌われ役でも構わない。何をされたって、やられたって、主君に尽くすのだ。 私は少年と少女を信じた。少年の勇気と、少女の優しさ。そして彼らの絆の強さを信じた。 少年はきっと立ち上がると。この悲しみと涙を胸にこの軍に勝利を導いてくれると思う。 ◇
シュウさんに悪いことをした。 だけど私が生きていることを知ったら、ルイはきっと私を守ろうとする。私の傍から離れなくなる気がする。戦いを放棄してしまう気がする。 大好きだから。 ルイのことが大好きで、ルイのことを信じていて、ルイのことを一番分かっているから。 私はキャロで道場を守ります。 だってあそこはあなたの帰ってくる家なのだから。 あなたがただいま≠言える日が来るのを。私がおかえり≠ニ言える日が来るのを。 願わくは、あなたをジョウイが共に帰ってくることを。 三人でまた笑い会える日が来るのを。 The End
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