きっともう自分は役に立てないと思った。

ただ不安感を与えるだけ。邪魔なだけなんだと。


別離


小さい頃からずっと傍にいて、ずっと見守ってきた弟。
いつのまにか大きくなって、逆に見守られてきた。弟の背中はとても大きくて、偉大だった。かっこいいと思えた。

どうしてだろうか。いつからこんな風に思えてきたのだろうか。
ルイがリーダーになると言ったとき、もう自分からルイは離れていた。だけど傍にいたかった。ルイは弟なのだから。例え血が繋がっていなくても、私たちは姉弟なのだと信じていたから。

幼い頃に繋がれた手。どちらかの手が冷たければ、もう片方が温めようと努力する。どちらも冷たければ、ギュッと握って温めようとした。小さな傷一つない、肉刺一つなかったその手には、いつしか沢山の切り傷ができ、戦った勲章ともいえる肉刺が沢山できていた。もう握ることはできなくなっていた。
弟はだんだんと遠い存在になっていった。もう弟とは呼べないと思ったぐらいに。

ティントで私は「逃げよう」と言った。
これ以上苦しむ弟を見たくなかったからだ。人が死んで苦しみ、ジョウイのことで苦しむ。これ以上にない苦痛を、この戦争は与えていると思った。自分にとっても辛かった。
だけどルイはそれを受け入れなかった。
たとえ自分が苦しくても、信じてくれる人がいるからと笑った。優しい笑顔だった。幼い頃から変わらないものだった。
私はもう、彼にしてあげられることはなかった。
苦しみから解放する術を知らなかった。知ることを許されなかったのかもしれない。

『傍にいてくれるだけでいいから』

傍にいられるだけじゃ嫌だ。何もできないのは嫌だ。

『辛かったらさ、いつでも頼っていいよ?』

それは私のセリフだよ。辛いのはルイでしょ?
だから無理やりついていった。少しでも役に立ちたかった。傍にいたかったから。




少年は泣いていた。
姉を失った悲しみは、誰にも分からない。ただ泣いていた。

『私、キャロに帰ります』

『…どうして』

『一緒にいてもルイにとって、私は弱みだから…。だから私、キャロで待っていたいんです。あの子におかえり≠ニ言ってあげたいんです』

少女の決意は固かった。
少年に嘘をつくのは容易いことだ。だけど心の傷を増やすことを考えると、どうも難しい。
言葉は単純だ。
たった一言で人をどうにでもできてしまうから。

『シュウさん…ごめんなさい。辛い役を押し付けてしまって…』

『…いや、軍師は嫌われ者でも構わないものだ』

そう、軍師たるものは嫌われ役でも構わない。何をされたって、やられたって、主君に尽くすのだ。
私は少年と少女を信じた。少年の勇気と、少女の優しさ。そして彼らの絆の強さを信じた。
少年はきっと立ち上がると。この悲しみと涙を胸にこの軍に勝利を導いてくれると思う。




シュウさんに悪いことをした。
だけど私が生きていることを知ったら、ルイはきっと私を守ろうとする。私の傍から離れなくなる気がする。戦いを放棄してしまう気がする。
大好きだから。
ルイのことが大好きで、ルイのことを信じていて、ルイのことを一番分かっているから。

私はキャロで道場を守ります。
だってあそこはあなたの帰ってくる家なのだから。
あなたがただいま≠言える日が来るのを。私がおかえり≠ニ言える日が来るのを。
願わくは、あなたをジョウイが共に帰ってくることを。
三人でまた笑い会える日が来るのを。



The End




+アトガキ+
ナナミ&シュウ視点です。時期は見てのとおりロックアックス城攻略前後。
色々とナナミの気持ちをですね、書いてみたかったんです。微妙に主ナナっぽくなりましたが。
沢山思う気持ちはあるんですよ。血が繋がってないこととかも含めて。
兄弟愛っていいですよね。うちでは考えられない(苦笑)