「あ…あのフッチさん。ちょっと聞いてもいいですか?」 小さき英雄は、その手に真の紋章を宿している。 そう…かつて僕が一緒に戦った友のように。ちょうど彼らと同い年だったか。この小さな英雄の背にも、何百とも何千ともいえるモノの命が乗っかっているのだ。 「なんだい?」 席を勧めると、ヒューゴは素直にそこに座った。 かつての英雄にこんな行為はしたことないな。ふと思い出して笑ってしまった。 「…?」 「いいや、なんでもないさ」 怪訝そうな顔をしてくる。それもそうだろう。いきなり笑い出したこっちが悪いのだから。 「――フッチさんは昔あったっていう戦争に参加してたんですよね。もしよければその時の話をしてもらいたいんです」 やっぱりそうか。 ヒューゴ自らが僕に話を聞きに来たんだ。これ以外には考えられない。竜騎士団関係だったらルシアやシーザーが来るだろうしね。 「長くなるけど、いいかな」 僕はテーブルの上で手を組み、ヒューゴに向かって微笑んだ。 彼はハイッと元気よく返事をしたが、少し緊張しているのか、表情が硬かった。 自分もこんな歳だった。彼らと共に戦い、彼らと共に勝利を喜び合ったのは…。目を閉じれば今でもその光景が思い出される。 そして…かつての愛竜ブラックのこと。彼の助けがなければ、今の僕はいなかったかもしれない。 僕は色々なことを思いだしつつ、ヒューゴに十八年前、そして十五年前のことを話し始めた。 十八年前の英雄、レキ・マクドール。彼は強かった。だけど、誰よりも弱い人物だった。 僕は彼が心から笑っている姿を見たことがなかった。いや一度だけ、まだ彼が帝国にいた頃。テッドという少年と共にいた頃は笑っていた。楽しそうだった。 そして再び会ったとき。彼が解放軍のリーダーとなって初めて僕と会ったとき、僕は彼が笑った姿を見て、別人のように思えた。大切な人を失ったと聞いた。それは僕もあったことのある人物であった。 数日後、シークの谷から帰ってきた彼もまた別人だった。その時の僕も、ブラックを失ったために泣いていた。 だけど彼は泣いていなかった。 レキは僕らの前で一度も泣くこともなく、笑うこともなかった。…違う意味で笑ってはいたけどね。 そして彼は解放軍を勝利に導いたその日、姿を消した。再び彼に出会ったのはその三年後。デュナン統一戦争時だ。 同盟軍を率いていたのはルイ。彼はレキとは違った人物だったよ。優しくて、誰よりも仲間のことを考えて…。そう言う意味ではレキとも似ていた、かな。似ていたけど、根本的なものは違った。ルイはレキとは違う。今の僕ならそうはっきりと言えるよ。 ルイも大切な人を失った。いや、彼の場合は違うか。うん。彼の姉…義理の姉なんだけどね、彼女は戦いで大きな怪我をしたんだ。生死をさまようくらいの…。だけど彼女は生きていながら戦闘から身を引いた。僕らやルイには死んだ、と言われていてね。私がいたら駄目なんだってよく言っていたよ。 レキは大切な人を沢山失った。ルイの大切な人は帰ってきた。 じゃあ君は?君の大切な人はどうなんだい、ヒューゴ? 戦争では誰しもが何かを失うんだ。僕もブラックを失った。他にも沢山、失った。 だけど得たものも沢山あるよ。少なからず、きっと。 「…俺、は」 黙っていたヒューゴが静かに口を開く。 「ルル…弟みたいな友を失った。今でも殺したやつのことは許せないさ。 だけど…だけどきっとあの人を殺したって、何もない。俺ももう、人殺し…なんだ」 「その気持ちを忘れないで、ヒューゴ。君も彼らに似ていると、僕は思う。 ルシアにも話を聞いてごらん?彼女も十五年前の戦争にかかわっているから…」 「わかったよ。ありがとうフッチさん」 最後はまた笑顔になる。 ヒューゴはどちらかと言うとルイに似ているな。僕はそう思う。 きっと君は彼らのように英雄になる。グラスランド…ゼクセンをも率いた英雄として。 だから僕もこの三つ目の戦いを見届けよう。 英雄となる君を見届けよう。 The End
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