「笑っていたほうが、君らしいんじゃない?」 いつか言われたあの言葉を、 今なら理解できる気がした。 その言葉を噛みしめて 結局、最後まで笑うことができなかった。 戦いは終わったのに。自分の故郷を取り戻すことができたのに。 哀しみの方が大きくて。喜びはほとんどない。 だから最後も義務的に笑うことしかできなかった。 最後だけでも笑う≠ニいう行為をしてみたかったけど、駄目だった。 でも皆から見ればちゃんと笑っているように見えるんだろうね。 僕は笑ってないよ? 大切な人も、家族も、…親友も。 何一つ残っていない。 「…ごめんね、みんな」 僕はここにいられない。だって皆と僕は違うのだから。 笑うことのできない王様なんて要らないでしょう? 政治だって僕に向いているはずがない。そういうことはいつだってマッシュがやってくれたのだから。 僕がやったことはただの人殺しだ。他にやったことなんて思いつかない。 しかもこの紋章を持っている限り、僕は周りを傷つけてしまうだろう。 僕はもうそれに耐えられない。 例え僕が耐えることができたとしても、周りがそれに耐えることができないだろう。 それこそ人殺し≠セ。 「…ごめんなさい」 ふと思い出したように呟く。 「そして一緒にいてくれてありがとう」 目の前で寝ている人物にそう告げる。 左手でその人物の髪に触れる。サラサラの金の髪が彼の者の頬へと落ちる。 そして旅支度を済ませ、外套を羽織る。 右手に棍を持ち、左肩には皮袋を背負った。 「いつか…いつか帰ってくるから」 きっと、きっと帰ってくるから。 そう自分に告げてテントを出る。外套を羽織っているにもかかわらず寒かった。 星たちが、夜空を飛び回る。 それは彼ら、百八の星たちがバラバラになることを示していたのだろうか。 「さあ…行くか」 早く行かなければ。明るくなる前にこの町から離れなければ。 すぐにでもレパントたちが自分を連れ戻しに捜索隊を出すだろう。 そうすれば捕まるということしか出来なくなってしまう。 足を早々に進める。いや、もう走っているに近い状態である。 幸い、体力には自信がある。普通に走っているだけでもけっこう遠くの方までいけるだろう。 彼が後ろを振り向くことは決してなかった。 ただ前を見て走り、少し歩いてはまた走る…それの繰り返しだった。 自分の走る音と自分の吐く息以外に音はない。静かだ。 静かはあまり好きではない。 孤独という体験もあまりしたことはなかった。 いつでもどこでも隣に誰かがいてくれて。 独りを感じることはなかった。…違う意味で感じることはあったけれど。 それでも孤独感を味わうことはなかったのだ。 「独りって…こんなに寂しいんだね」 足を止め、近くにあった木に背を預ける。 テッドもこんな気持ちを持っていたのかな。 独りで紋章の闇と戦って、苦しんで、哀しんで。 僕と出会ったことで君の中で何か変わった?…きっと変わったよね。 今なら君の気持ちがはっきりと読み取れる。 君の哀しげな後姿が思い浮かぶ。 きっと今…独りで寂しがっているのはあいつだ。誰よりも哀しんでいるのに、それを必死に隠している。 「こんな僕でもあいつの力になれるのかな。あいつが僕の力になってくれたように」 悩んでいても仕方がない。 必ず助けに行くから。だからもしものときは呼んでよ? …人が死ぬのがイヤで逃げてしまっている駄目なリーダーだけれど。 きっとお前の助けになれるから。 「休憩終了!」 また足を動かす。まだ大丈夫。昨日の戦いの疲れはでていない。 追っ手も来ていないだろう。みんな疲れと喜びで眠っている。 当てのない旅路だけれど、きっとなにかが見つかる。 それがなんであろうとも。 見つからないよりは、ましだ。駄目だったら、また次を見つける。 先は長いんだ。ずっとずっと先のことなんて誰も分からない。 きっと見つけるから。 貴方が言った、僕の本当の顔を…。 The End
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